1865年と『不思議の国のアリス』と『トリスタンとイゾルデ』

来週水曜日から一般公開される「オルセー美術館展2010」ですが、公式サイトの作品紹介によると、その中で最も制作年が古いものは、フランス象徴主義の先駆けとなったギュスターヴ・モローの『オルフェウスの首を持つトラキアの娘』(1865年)のようです。

(実際はもっと以前の作品も出されるとは思いますが・・^^)


1865年というと、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』が出版された年であり、また、リヒャルト・ヴァーグナーの『トリスタンとイゾルデ』が、ミュンヘンで初演された年でもあります。


ルイス・キャロルについては知りませんが、ヴァーグナーに対しては、象徴主義の芸術家たちが、こぞって賞賛の声をあげていました。
そもそもこの時代に、ヴァーグナーの影響から完全に自由だったヨーロッパ圏の芸術家を探すことは、なかなか困難です。
彼のことを「大好き」で、後ろから付いて歩くような群れもあれば、逆に「大嫌い」であることを自己表現にしていた群れもあり、そのどちらも、結局は彼の作品と無縁には過ごすことができなかった人々でした。
そして、1865年に世に出された『トリスタンとイゾルデ』ほど、影響力の大きかった作品もないと思います。
まさにこれは、あらゆる芸術の枠を超えて、革命的に新しく、破壊的な何かを、多くの芸術家の胸に植えつけた作品なのでしょう。



トリスタンとイゾルデ』終幕、ヴァルトラウト・マイアーが歌う“イゾルデの愛の死” 2007年スカラ座公演より

(同じ年に、バレンボイムの指揮、マイアーのイゾルデという同じ顔ぶれで、ベルリン国立歌劇場として来日公演があったのは、記憶に新しいところです。NHKホールでなければ、尚良かった・・と思いましたが、どちらにしても本当に素晴らしい演奏でした。)




ところで、画家の中では、ルノワールとファンタン=ラトゥールは、かなり熱烈なヴァグネリアンです^^
なんとなく分かるような気が・・・・・


実は私個人は、ヴァーグナーは人として大嫌いな作曲家です。
こんな最悪の人間には、絶対に近づきたくもないし、ましてや賞賛の声などあげる気にもなりません。
いやホント、この男、人間のクズです。
そう思ったら、肖像画の顔を見ているだけでも、ムカムカ吐き気すらしてきます。


ただ・・・・
この『トリスタンとイゾルデ』の音楽だけは、どうにも抵抗しきれないものがあります。
聴けば、やはり取り憑かれるんですよね・・
麻薬的な力があって、一度耳にすると、最後まで聴かずにはいられません。
(どころか、わざわざそれを聴くために高額のチケットを買ってワクワク出かけていくくらいです^^;;)
現代人の私ですらこんな具合なのですから、彼と同時代に生きていた人々が、雪崩のように彼の賛美者となっていったことは、容易に想像ができます。


悔しいけれど、凄い人ですね・・・
大嫌いですけどね^^



ワーグナー : 楽劇「トリスタンとイゾルデ」全曲ワーグナー 楽劇「トリスタンとイゾルデ」グラインドボーン音楽祭2007年 [DVD]ワーグナー (作曲家・人と作品シリーズ)