ト短調が好き

ト短調・・・・という調性が好きです。
子供の頃から、「この曲、好き!」と思うと、ト短調で作られた作品であることが多く、私の中ではベストの響きなのです。


私が一番最初に心惹かれ、ト短調という調を意識したのは、ガブリエル・フォーレの『シシリエンヌ』という曲だと思います。
フォーレの弟子がオーケストラ用に編曲したものが有名ですが、それも素敵だとは思いますけれど、私の場合、曲との出会いがオリジナルのチェロとピアノの二重奏だったので、そっちで「刷り込まれている」といいますか、今でも『シシリエンヌ』はチェロで聴きたい曲です。


フォーレ作曲『シシリエンヌ』Op.78 チェロとピアノのオリジナル演奏で




ト短調は、関係調も、どれもこれも好きです。
特に、平行調変ロ長調の、のびのび心温まるような明るい響きと、同主調ト長調の、天真爛漫にキラキラ輝くような響きが、どちらに転調しても、ト短調の深く切ない感じと好対照です。
属調ニ短調なのも、下属調ハ短調なのも、私にすればもう「完璧」です^^
ニ短調平行調ヘ長調に行こうが、ハ短調同主調ハ長調、あるいはニ長調変ホ長調に行こうが、なんという陽の当たる楽しい道でしょうか!
近親調のどこへ行っても、気分のよい響きが待っている、それがト短調なのです!
特に、室内楽やオーケストラの曲を聴く時、それは実感します。
(ピアノ独奏の場合は、またちょっと別・・・かも。)



・・・とまぁ、こんな感じでト短調を愛している私ですが、今から8年ほど前のある日、小学生の息子が口ずさんでいる「歌」に、びっくりしました("▽"*)
メロディーは、まぎれもなく、J.S.バッハの『小フーガト短調』なのですが、そこにくっついている歌詞ときたら・・・
「♪あ〜な〜た〜〜〜〜は、髪の毛ありますか〜〜〜〜 ハゲハゲこんなのや〜だ〜・・・・♪」
ちょ、ちょっと、ちょっと〜〜〜〜「その歌、何っ!?」とさえぎって聞いたところ、「なんだよー、おかあさん、知らないの? これ“ハゲの歌”だよ」というお返事。
もう心から愕然とする私に、「学校でみんな歌ってるよ」・・・と。
なんたることやら・・・・「鼻から牛乳」に引き続き、またもバッハ様は子供の替え歌被害に遭っておられるのか・・・と、悲しみつつも、「ねー、その歌、全部歌って」と息子に歌わせ、結局は不謹慎にも爆笑してしまったのでした。


本物の『小フーガト短調』は、こんなにも美しく、気高く、清廉な曲だというのに・・・


J.S.バッハ作曲『小フーガト短調』BWV578 トン・コープマンのオルガン演奏


・・・・・と、今これを書くのに、パソコンでYouTubeの音源を流していたら、それを後ろで聴いていた、今は高校生の息子が、「くくく」と笑い出し、「その曲聞くと、どうしても浮かんでしまうんだなー」と言って、「はげはげ〜〜」と歌い始めるので、激しく落胆・・・(-"-)



気を取り直し・・


ト短調と言えば、この調性を「特別」に考えていたモーツァルトの話になりますけれど、彼が作曲したト短調の曲では、そりゃ、あの有名な『交響曲第40番』は偉大な名曲ですが、私が大好きなのは『交響曲第25番』です。
まだ17歳とか、それくらいの年齢で、こんな作品を創ってしまうモーツァルトって、やはり天才の中の天才ですね。
凄いなぁ・・・・ホント。


モーツァルト作曲『交響曲第25番ト短調』 ベーム指揮ヴィーンフィル


他にモーツァルトト短調で、私が好きな曲は、『魔笛』の王女パミーナの独唱です。
この歌の美しさときたら、初めて聴いた時は衝撃でした。
お蔭で、この演奏に対する「要求の数値」が異常に高くなってしまって、最近は誰のパミーナを聴きに行っても、「うぅーーーん、違う」・・となってしまってます。
歌手の皆さんにとっては、短いながら、とても難しい曲だと思うのですが、どうも引きずられたような音程で歌う方が多く、そこが著しく不満です。




歌の作品では、なんてったってヴェルディの『レクイエム』です。
この中の最大のクライマックス部分、「怒りの日」のト短調は、これ以上は望めないような大迫力です。
合唱部員の頃、一度ソプラノパートを歌いましたが、楽しかったし、感動したし、またもし機会があれば、ぜひ参加したいです!
聴き手としては、ミラノスカラ座が初来日した時に、東京文化会館で聴きましたが、この時の演奏は今も忘れることができません。


ヴェルディ作曲『レクイエム』より“Dies irae




ピアノ愛好家の私としては、外せないのはショパンの『バラード第1番』です。
まさに、ト短調の魅力の全てがつまった曲だと思います。


ショパン作曲『バラード第1番』 ツィメルマン演奏


しかし、今あらためて考えてみると、ショパンの作品に「ト短調」のものって、そう多くは無いのですよね・・
↑にも書きましたが、ピアノ的には、ト短調という調性は、けっして「弾き易い」調ではないのです。
同じことなら、「嬰ト短調」のように黒鍵の多いものの方が、ずっと運指がラクなのです。
確かに見慣れるまでは、調号の多い楽譜はイヤかもしれませんが、慣れてしまえば、極端な話、ハ長調のように白鍵だらけの曲ほど弾き難いものもありません。
ト短調という調性は、どちらかといえば白鍵が多めの調にウロウロ移調しがちですし、その点ではちょっと敬遠される傾向があるかもしれません。
少なくとも私は、ピアノ曲は黒鍵が多い、調号にシャープやフラットがじゃんじゃん付いているものの方が好みです♪
あくまでも弾く立場としては・・・


聴く立場となれば、ト短調ほど、あらゆる魅力を兼ね備えた調性はないと思います。


ト短調、最高っ!




スコア モーツァルト 交響曲第40番 ト短調 KV 550 (Zen‐on score)No.316 モーツァルト/交響曲 第25番 ト短調 (Kleine Partitur)ショパン: バラード ト短調 Op.23/ヘンレ社原典版