『ボストン美術館展』感想/アンソニー・ファン・ダイク

忘れないうちに、六本木ヒルズの森アーツセンターギャラリーで17日から開催されている『ボストン美術館展−西洋絵画の巨匠たち−』の感想を、簡単に書いておきます。


まず一言。
とても楽しいです。
目にした瞬間、わぁっと胸躍る作品が何作もあります。


中でも今回、私の心に残ったのは、アンソニー・ファン・ダイクが描いたことが近年になって実証された、『チャールズ1世の娘、メアリー王女』の肖像画です。

こんなウェブ上の画像では到底再現できない、大変に美しい絵でした。
特に幼いメアリー王女の表情の気高さ、衣装の青色とレースの透明感は、実物を見てこそ伝わるものです。


この肖像画が描かれたのは1637年ごろ・・とのことですので、1631年生まれのメアリー王女は6歳だったことになります。
(それにしては、随分大人びた印象ですが・・・)


父親のチャールズ1世は、ファン・ダイクが大のお気に入りで、彼が1641年に亡くなるまで、宮廷画家として大切に遇していました。
何枚も、自分や家族の肖像画を描かせています。

王自身の肖像画の代表作は、ルーヴル美術館にある『狩り場のチャールズ1世像』でしょう。
これはアンソニー・ファン・ダイク全作品の中でも、最高傑作の一つに数えられています。


しかし、このチャールズ1世は、ちょうど画家が亡くなった頃にはじまった清教徒革命のイングランド内戦に破れ、最後は裁判に掛けられて死刑判決を受け、公開処刑されました。
1649年のことです。


娘のメアリーは、当時オランダ総督夫人でしたが、次々と亡命してくる親族を受け入れ、手厚い保護を与えました。
しかしそれも、夫が急死すると、オランダ国民の反発に遭い、ついには国外追放同然の数年間を過ごします。
それでも1657年には、女性ながらオランダ摂政となって返り咲き、何かとちょっかいを出してくるフランスのルイ14世に対抗して国政を仕切ります。
なかなかの根性の持ち主だったのではないでしょうか?
ところが1660年、王政復古したイングランドに帰郷した際、流行り病の天然痘に倒れ、なんと父のチャールズ1世が公開処刑されたホワイトホール宮殿で、亡くなりました。
もしかすると、父がそこに、娘を呼んだのでしょうか?("▽"*)




政治的には無能だったと評され、王でありながら斬首刑にされたチャールズ1世ですが、アンソニー・ファン・ダイクが描く肖像画の中では、とても威厳があり、高貴にして優美な王様です。
娘のメアリーも、幼いながら、しっかりと自己を持った女性として描かれています。
動乱の世の中で、人生を翻弄された父と娘ですが、フランドルの生んだ天才画家の筆により、永遠に美しい姿をとどめ、今は美術館の華として、私たちを魅了していることを、あの世の彼らは、どう思い眺めているのでしょうか?


古い絵画を見るとき、いつも私は、その作品が制作された時代と人のことを思いますが、特に肖像画に関しては、この絵が描かれたときに、イーゼルの向こうに居た彼らや、その後の人生を想像し、それが面白くてなりません。
今回の『ボストン美術館展』では、そうした楽しみを与えてくれる肖像画をはじめ、とても広範囲に「名作」が出品されています。


開催は、6月20日までです。


ボストン美術館のウェブサイト


ボストン美術館展』開催のTVニュース動画