『細川家の至宝展』と『新指定国宝重文展』そして酒井抱一

先週4月20日(火)から、東京国立博物館では特別展『細川家の至宝−珠玉の永青文庫コレクション−』が、6月6日(日)まで開催されています。
さらに今週の27日(火)からは、本館にて『平成22年新指定国宝・重要文化財』の特集陳列がなされます。

  


さらに加えて東博の本館常設展では、国宝室に、『古今和歌集』の仮名序と20巻を完存する最古の写本が展示されています。
コチラにその拡大画像も掲載されていますが、まぁ〜その美しいこと!
特別展にいらっしゃる方は、ぜひ!この国宝室にもお立ち寄り下さいネ


また、尾形光琳の『孔雀立葵図屏風』や、酒井抱一の『四季花鳥図巻』など、琳派ファンには堪らない作品も陳列中!
これらは5月16日までです。


なかでも酒井抱一の『四季花鳥図巻』は、何度目にしても、その美しさに気持ちが高揚します。
常設展の静かな室内で、ゆっくり丹念に鑑賞すると、しみじみ幸せになってきます。


酒井抱一は、そもそもが姫路藩酒井家の嫡流に生まれ、場合によっては藩主になったかもしれない人物です。
そんな身分であった彼が、いかに書画を好み得意であったにせよ、30代半ばで出家し、その後は本格的に絵師として生きていくことを選択するにあたっては、さまざまに複雑な事情があったに違いありません。


大名家に生まれた、次男三男の人生とは、なかなか屈折の多いものです。
跡継ぎの“保険”として控えていてもらわねばならず、しかし嫡男が無事に跡を継げば、なんとなく邪魔な存在となり、その後は“飼い殺し”にされるか、“出家”を強要されるか・・・
おそらくは酒井抱一は、そうした微妙なバランスの中で、多感な少年期・青年期を過ごし、好きな書画や俳諧に打ち込むことで、どうにかセルフ・アイデンティティを保っていたのではないでしょうか?
いよいよ酒井家の中で“お荷物”になる時がきたのか、信仰心があったわけでもなんでもないのに“出家”した(させられた?)彼は、いよいよ画業に打ち込むことになりますが、ここからが彼の人生表舞台の幕開きでした。
「江戸琳派」の創始者となり、次々と見事な作品を生み出していきます。


今回展示されている『四季花鳥図巻』(上巻)は、まさに円熟期の作品で、上等な顔料を使用して描かれていることと、保存状態が優れていたことから、目にも鮮やかな美しい絵です。
しかも、美しいだけではなく、とても微笑ましいというか、可愛らしいというか、見る人をいつの間にか笑顔にする作品です。




ところで抱一は、“出家”したとはいえ、吉原遊郭の遊女であったのを身受けした女性と、一緒に住んでおりました^^
その女性は、抱一と同じく書画を愛し、いつも仲良く共に制作していたようです。
遊郭というところは、たとえ太夫のような上席の遊女であっても、「苦界」と呼ばれていたほどきつい世界だったそうですから、そこから出してくれたばかりか、書画の道にも伴ってくれた抱一に、彼女は深く感謝していたことでしょう。
(そうは言っても、抱一の遊郭通いは、晩年までずっと止むことがなかったそうですが^^;)




美術画報〈第39号〉特集 江戸琳派絵は語る (13) 夏秋草図屏風-酒井抱一筆 追憶の銀色-新版 古今和歌集 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)